半減期後の暗号資産市場|デジタル時代の新しいお金とは|専修大学 OGAWA先生にインタビュー

暗号資産が経済と社会に与える影響は、年々拡大しています。ビットコインの半減期、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の台頭、そして国境を越えた新たな経済活動の可能性。

これらの動向は、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか。本記事では、暗号資産の半減期と社会にもたらす変化について、専修大学のOGAWA先生にお話を伺いました。

インタビューにご協力いただいた方
OGAWA先生

専修大学・経済学部・専任教員
小川健(OGAWA, Takeshi)

数学系の学科を卒業後、大学院で経済学へ転向。2011年春に名古屋大学から博士(経済学)を取得。現職では国際経済や資源・エネルギーに関する科目、数学の補充科目、貿易理論などを担当。研究分野は伝統的な国際貿易理論、水産物の貿易分析、暗号資産の教育、そして経済学教育でのIT活用等。貿易分野に限定せず幅広く活動している。2015年4月から現在の大学に着任。教育面での工夫として、国際金融の授業にデジタル通貨や外貨建て保険商品などの内容を導入してきた。

目次

ビットコインの半減期が及ぼす経済的影響

ファイナンスジャパン合同会社編集部:ビットコインの半減期が及ぼす経済的影響について、どのようにお考えですか?

OGAWA先生: これは「中の人」と「外の人」に分けて説明する必要があろうかと存じます。

 一般に半減期では(取引者からもらえる分ではなく)新規発行分としてブロックを接続したマイナー(採掘者)に渡される報酬が半分になることを意味しますが,それで「こんなにもらえなくなるならビットコインのマイニングはやめよう」という人でも出てこない限りは,外の人にはせいぜい「ビットコインを通じて暗号資産の価格が変化する要因が1つ増える」くらいに過ぎません。そしてアノマリー(理由を説明しにくい経験則)の中にビットコインの半減期の前後にビットコインの価格の上昇などがあり(この部分は問題点も含めて後述します),現状でビットコインの半減期にやめる人が出てこない以上,この後の半減期で減る量はどんどん少なくなっていく訳ですから,この後にビットコインの半減期が及ぼす経済的影響を,ビットコインについてほぼ何も知らない「外の人」が感じる部分は「ビットコインの暗号資産業界全体における地位が大きく下がらない限りは」あまり無いだろうと考えられます。ここでは「経済的影響」なので,アノマリー(理由を説明しにくい経験則)による価格の変動部分の話は(後に回して)一旦置いておきます。

 本来,半減期を契機としてマイニングをやめる人が出てくると,そのときの採掘機材が無駄になるわけですが,それでは勿体ないのでその機材を使って他の暗号資産で荒稼ぎする,という危険性はありました。半減期が理由ではないのですが2017(平成29)年12月当時の最高値から半年間でビットコインの価格が急落した際,ビットコインのマイニングに利用していた高性能なマイニング機材が「その規模の計算処理能力を想定していなかった」モナコインなどの他の暗号資産のマイニングに回され,2018(平成30)年5月にはブロックチェーン技術に対する本格的な攻撃の1つである51%攻撃(およびその関連の攻撃)がモナコインなどに起き,モナコインなどでは「既に承認していたはずのブロックが無効になり別の分岐のブロックが代わりに承認される」巻き戻し(ReOrg)が起きて混乱した,という事案がありました。こういう事でもあれば話は別ですが,2024(令和6)年7月現在でそこまでのことは(少なくとも半減期では)考えにくい部分もあり,ビットコインの半減期自体が「外の人に」与える影響は比較的少ないと思われます。

 しかし「中の人」つまりビットコインを持っている人・ビットコインでの取引をする人やマイニングに関わる人にとっては半減期は決して無視できない案件と言えます。繰り返しになりますが半減期は取引を承認するマイナー(採掘者)に新規発行量として渡される量が半分になることであり,本質的には取引承認にかかる費用を取引希望者に負わせる比率が高くなることを意味します。ビットコインは元々取引履歴を束にするブロックに入れられる取引量が少なく,2017(平成29)年のビットコインの価格高騰の段階でその取引量が多くて処理しきれず,手数料が低いと放置された取引履歴があった位です。その後チェーンに直ぐには直接書き込まない「ライトニング技術」が発展した事により,ライトニング技術を利用した取引を使った場合はチェーンに書き込むのは色々な取引の差し引きした結果を書き込めば済むことになったので1回の取引当たりの手数料少なく取引でき,取引できる総量も増えてビットコインの延命に繋がった面があります。

 ところで受益者負担の原則を思えば,ビットコインの取引にかかる費用つまりマイナーが得る費用は本来取引をしている人が全額支払うべきであり,新規採掘は或る意味その負担を減らすと共に発行される事によるインフレでビットコインの価値を下げる筈の行為と言えます。半減期はその新規採掘が減るので,長い目で見ればビットコインの価値を下げるインフレの抑制策とも言えます。受益者による負担へと着実に繋がる訳であり,その意味では妥当性もあります。その反面,ビットコインの取引需要が大きく増えている状況では,需要に見合った供給量の確保は最終的には新規の採掘しかないわけで,その意味では採掘量が減る半減期はビットコインを使い難くする価格高騰を招く側面はあります。

 本来その際にかつてのように取引1つ1つ全てブロックに書き込む必要があった時代なら,マイナーに支払う費用ばかり高騰して,手数料にプレミアの付いていない取引履歴は放置,となる危険性はありましたが,ライトニング技術の進展で1つのブロックに事実上書き込める取引量は増え,より多くの人で手数料を割れるようになりました。半減期によりマイナーが得られる手数料収入が「ビットコイン換算では」減った場合でもマイニングを維持できるだけのビットコインの値上がりが仮に起きたとして,取引者1人当たりの支払うべき手数料はそこまで大きな打撃を半減期で受けなくて済む状況になっていくと言えます。

半減期が暗号資産の長期的な価値保存機能に与える影響

ファイナンスジャパン合同会社編集部:半減期が暗号資産の長期的な価値保存機能にどのように寄与すると考えられますか?

OGAWA先生:半減期が暗号資産の長期的な価値保存機能に寄与する部分の説明として無視できない点に「潜在的に存在可能な上限の規定」があります。正確には半減期に限りませんが一般に半減期などは,その暗号資産における(金[Au]のような)潜在的に存在可能な上限を規定します。

 ビットコインが約2100万BTCを上限としている,というものはこの半減期などによって支えられているものです。半減期が無ければ発行上限が来た際に急に新規の報酬が発行できなくなるため,Proof of Work(PoW)などをはじめとして取引履歴の束(ブロック)などを繋ぐために報酬を必要とする認証法を持つもので発行上限が存在するものは概ね半減期ないしはそれに類するものを持っています。

 PoW型で半減期を持つものであればビットコイン(BTC)は最も有名ですが,他にも約3年で周期が来て次は半減期が2026(令和8)年頃となるモナコイン(MONA)など色々あります。https://bitcoin.dmm.com/column/0156 (2024-07-30アクセス)

半減期という場合には新規発行量が正確に半分に減らなければなりませんが,原理的には正確に半分に減る必要は無く,イーサリアムクラシック(イーサクラシック:ETC)では半減期ではなく20%ずつ新規発行量を減らしていく形を取っていて,次の減少期は2024(令和6)年8月頃とも言われています。https://www.cmsite.co.jp/money/crypto-halflife/#index_id7 (2024-07-30アクセス)

 半減期を持つ認証方式はPoW型に限りません。基本的には保有量が多いことを新規ブロック接続の認証条件とするProof of Stake(PoS)型(DPoS等関連のものも含む)などでも半減期は存在しているものがあります。ビットコインとイーサリアムの長所を取り入れて作られたとされるクアンタム(QTUM)は発行上限とおよそ4年ごとの半減期を持つPoS型(正確にはMPoS: Mutualized Proof-of-Stakeと言います)の暗号資産です。近年では特定の期間に暗号資産の交換業者に預けておくことで「見かけの保有量を集めた」暗号資産の交換業者による承認・認証の報酬を分配する「ステーキング」等でも注目されているものになります。https://bitbank.cc/knowledge/chart/qtum (2024-07-30アクセス)

 「長期的な」価値の保存機能という観点では半減期などによって潜在的な上限が定められていることで,「その暗号資産の必要性が認識されている限り」価値の保存はし易くなる部分はあります。しかしこの点には数点ほど注意が必要です。

 1点目は半減期による潜在的な発行上限は必ずしも長期的な価値の保存に対する必要条件ではない,という点です。これは貨幣と似た部分ですが,その暗号資産の必要性が認識されたままその経済が発展していくに伴い,貨幣の取引需要が増えていくのと同様にその暗号資産の取引需要も少しずつ増えていくため,半減期などが設定されていなくても長期的に価値の保存が可能な場合があります(例えば発行上限は無いがブロックチェーン同士を繋ぐとする意義から注目され,現在は「ステーキング」の重要な銘柄の1つになったポルカドット等にもそうした可能性はあります)。ちなみに「ステーキング」でも現在注目されるようになったイーサ(ETH)については昔のPoW型からPoS型へと変更されたためステーキングの対象となっていきましたが,半減期や潜在的な発行上限は設定されていません。イーサ(ETH)は2013(平成25)年に誕生してから10年以上経ちますが,電子的なものにシリアルナンバーを付けて過度な複製を防止するNFT(非代替性トークン)におけるイーサリアム・ブロックチェーンの利用とそのイーサによる手数料(ガス代)支払いなど色々使われていることに加え,バーン(焼却)の仕組みを入れて供給量を制限できるようになったこともあり,いまだに暗号資産の時価総額では上位(一説には2位)に名を連ねています。https://coincheck.com/ja/article/10 (2024-07-30アクセス)

 2点目は各暗号資産の価値というものはその暗号資産の必要性が認識されてこそその価値は保存されるのであり,上位互換が現れて認識されたり,その役目を果たせなくなったりした場合はその価値は保てなくなります。半減期のある暗号資産の例ではありませんが,かつてのテラUSD(現在はテラクラシックUSD:USTCへと名称変更)は元々米ドルに価値を連動させた暗号資産(ステーブルコイン)として注目されていました。しかし2022(令和4)年5月に(価値を維持するためのプログラムが機能しなくなって)その価値が保てなくなって以降,米ドルに価値を安定させたステーブルコインの役目は他のものが担うようになりました。2024(令和6)年7月現在ではUS$0.02.-前後を推移しています:2024(令和6)年7/30(火)現在US$0.01968.-くらい。https://www.coingecko.com/ja/%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%B3/terraclassicusd (2024-07-30アクセス)

 3点目は「半減期」の「長期的な」価値の保存機能と「半減期」の短期的な値動きとは区別して理解する必要があるという点です。半減期の前後にはビットコインを中心に(一部には値上がりも含めて)大きな値動きが起きてきた過去はありますが,基本的には半減期とは取引履歴の束(ブロック)を接続するマイナー(採掘者)への報酬のうち(取引者からの支払い分ではなく)「新規発行分」を減らす仕組みであり,その暗号資産に対して存在意義があまり見出されない場合にはもらえる報酬がその暗号資産ベースでは減らされる訳ですから,マイナー(採掘者)に見捨てられる危険性はあるタイミングになりえます。       

 4点目はこの半減期・潜在的な発掘上限などについては「取り決め」であ,という点です。本来この半減期・潜在的な発掘上限は金山などの鉱山が(ゴールドラッシュでもない限り)掘れる量が少しずつ減っていく特性を参考に,放射性同位元素が徐々に壊れていってその量が減っていく形に似せて設計されています。しかし,金山は(かつての日本の炭鉱の多くのように)掘り尽くしてしまえばとれなくなってしまうのに対し,暗号資産の半減期などに関してはそのコミュニティなどで決まっているからそうなっているのであり,「長期的」という議論をする際に未来永劫この取り決めが覆らないという保証がある訳ではありません。金(Au)については一部の金細工をはじめ,使われた後に回収困難な用途があるので,リサイクルを意味する都市鉱山にも限界はあります:東京五輪2021で注目された携帯電話から金(Au)を取り出すなどはそれだけ携帯電話の台数が多いから金メダル等の製造には何とかなっただけです。暗号資産に関してはあまりにも大きな不都合があった場合にはそのコミュニティでルール変更が行われる,ということはかつてイーサリアムクラシック(ETC)が出来るきっかけになったDAO事件でのイーサ(ETH)の設計変更を思い出してもらえば可能性が0とは言えません。現状半減期が最も注目される銘柄であるビットコインが発行上限に達するのは1世紀以上先の予定ですが,これまでもビットコインにも数多くあったハードフォーク・分裂を考えれば「長期的には」変更の可能性は0ではありません。

半減期後の価格変動について

ファイナンスジャパン合同会社編集部:半減期後の価格変動に対して、投資家はどのような戦略を取るべきだとお考えですか?

OGAWA先生:まず押さえておかないといけないのは,半減期前後の価格変動については確定的に起きる動きではなく,あくまでアノマリー(理由を説明しにくい経験則)であることを触れておく必要があります。半減期後だから「確実に」値上がりする,などと書いている記事があるなら,その記事は信用しない方が良いです。確実にもうかる物など投資の世界にはないからです。

 ではまずアノマリー(理由を説明しにくい経験則)ではどのようなことが言われているのでしょうか。例えばCoinPostの2023(令和5)年12/2の記事では次のような記載があります。「ビットコインのマイニング報酬が半減する年は、市場にとって強気な年であるとの歴史的なデータがある。(中略)マイナーは半減期に備えてビットコインを蓄積する傾向があると考えられており、仮想通貨取引所Bitfinexのオンチェーンデータ分析によると、ビットコインマイナーは2023年5月27日以降、蓄積の傾向が顕著に増加していることが示されている。」https://coinpost.jp/?p=495720 (2024-07-30アクセス)

 では何故この上がる傾向が確定的な事項でなくアノマリー(理由を説明しにくい経験則)に留まるのでしょうか。私の他の原稿でもこの点には触れたことがあるのですが,「それ以外の不確実性が大き過ぎるから」という部分に集約されます。https://klikandpay.co.jp/interview-ogawa/ (2024-07-30アクセス) 

例えば私の記載で批判している,半減期で価値が上がるとする次の説明を例にしましょう。「金は年々採掘量が減っていく→希少価値が出るという図式になっています。金をモデルに作成されたビットコインは半減期を設けることで年々発行量を減少させ、希少価値を作り出すように設定してあります。ビットコインは発行上限が決められていること、半減期を設けていることで高い価値が補完されているといってよいでしょう。」https://www.bitpoint.co.jp/column/tips16/ (2024-07-30アクセス)

この記載には次の部分を指摘しておく必要があります。「この説明が成立するのは、ビットコインが金(Au)同様に『他に換えが効かない』場合に限ります。」ビットコインの現在の存在意義を考えれば,1度に承認可能な取引量もその後に出てきた各種暗号資産と比べても決して多くなく,当初の(キプロスの金融危機のときに注目された)存在意義だった国際送金の手段としてもビットコインより優れた暗号資産は色々あります。価格変動を抑えて送るなら各種ステーブルコインなど出てきていることを思えばビットコインで無ければならない所はあまり多くありません。時価総額は大きく多くの交換業者で扱っているからあまり知られていない種類の暗号資産同士の交換をする場合の媒介通貨としての役割くらいです。直ぐにビットコインの地位が揺らぐことはないかもしれませんが,上位互換の暗号資産が登場し,多くの人に認識されたら簡単にとってかわってしまいますので,その場合にはビットコインの価格は大きく下がることになります。他にもビットコインは金細工等のように再度売り出しが困難になる訳ではなく,昔に掘り出されたものが急に売り出されて価格に影響する可能性は残ります。

 モナコインをはじめとして,半減期が実際に来る位に歴史のある他の暗号資産(アルトコイン)の場合にはこの「固有の」意義を問われる部分は猶更のことと言えます。半減期が来るまでに多くの「より優れた」暗号資産は出てきているわけですから。例えばモナコイン(MONA)にはかつて「つぶやくように気軽に送金できる」投げ銭の機能があり,初めての実装として当時は注目されていましたが,NEMなど他の暗号資産にも入った後,モナコインの投げ銭機能は無くなってしまいました。

 とはいえ,「たとえ説明困難なアノマリーだろうと市場に参加する人がそう思って行動する場合にはそうした価格形成がされることは充分に有ります。将来的にその時代における妥当な理由が説明される可能性はあります。」

 そうすると,暗号資産の半減期後を考える上で投資家が考えるべきことは,上振れも含めて価格が動く「リスク」要因が増えることを理解して,持つか売るかを決める,という部分なのではないでしょうか。その暗号資産の半減期の影響もあります。経験則としてビットコインの価格が大きく動くとそれにつられて暗号資産全体の価格も動く傾向は知られているので,その暗号資産の半減期以外に「ビットコイン自体の」半減期の影響も考慮する必要があります。例えばトランプ氏やゲンスラーSEC委員長等の有名人が一言話した方が影響は大きい場合はあります。

 過去はその後に大きく値上がりすることは「あった」けれども「確実な情報ではない」ことを踏まえて,それでも自己責任を理解して仕込むのであればそれを止める理由はありません。

中央銀行デジタル通貨の普及が暗号資産市場に与える影響

ファイナンスジャパン合同会社編集部:中央銀行デジタル通貨(CBDC)の普及が暗号資産市場に与える影響をどのように見ていますか?

OGAWA先生:基本的には暗号資産自体では出来ない部分を補完するものとしてCBDCが機能すると考えています。そのため,CBDCが普及すると暗号資産市場にはCBDCで出来ないことを扱う部分が残るようになる,と考えています。

 CBDC(中央銀行デジタル通貨)はバハマのサンドダラーやナイジェリアのeナイラをはじめ,準CBDCと言われるカンボジアのバコンも含めて幾つか既に登場(ローンチ)しているものもあります。ローンチ間近と扱われている物の中には中国大陸のデジタル人民元(DCEP:デジタル通貨電子決済)等があります。意外に思われる方もいるかもしれませんが実は日本のCBDCであるデジタル円も発行間近扱いとなっていて,日銀の黒田総裁(当時)の時代には2026(令和8)年には入れるかどうかを決める,という発表がなされています。 

 しかしそもそも,CBDCは万能ではありません。まず国の中央銀行などが発行するので,民間と違い色々失敗があることはあまり許されるものではなく,ちゃんと用途を固めてから出すことになります。そのため,CBDCに出来ることは限られます。例えばコード決済の1つである楽天Payは楽天カードというクレジットカードでのチャージが出来る部分がありますが,CBDCにはそのような「クレカチャージ」という機能などは本来期待できません。

 もっとも,いざとなれば乗り換えられるように先に民間で出しておいて後から(中央銀行などによる)公的なお墨付きを与えるsCBDCという手段もあり,これなら万一深刻なバグなどが後から発見されたとしても他のものに乗り換えるのは比較的容易に出来ますが,sCBDCを取り入れる場合に(手数料収入なども期待できないのに)「民間として」開発するメリットがどこにあるのか,という問題は残ります。CBDCは本来,現金に次ぐ流動性と(代金の支払いの用途に使われたら受け取らなければならない)「強制通用力」に近いものが必要になるので(「強制通用力」とは言い切れない部分については後述します),クレジットカードやPayPay等のコード決済のように「使うたびに手数料を取る」という形には出来ません。日本の「民間」デジタル通貨の1つ,DCJPYなら参加メンバーを見るとsCBDCになる可能性はあるかもしれませんが。

 そのうえ,CBDCは国ごと(正確には地域限定の場合も含めて主権とその政府の持つ法的効力の及ぶ範囲ごと:以下「国ごと」と記載します)の制約を受けます。これは現金との違いとして非常に重要な点です。CBDCはデジタルで色々扱えるからこそ,本来は暗号資産のように国を超えて扱えそうな気が一見しますが,かつて暗号資産の一種であるモネロなどの「匿名通貨」で問題になった「犯罪取引・資金洗浄への利用」をその国のCBDCで許容する訳には行きません。

 現金の場合にはその検証方法がないので,大昔の犯罪取引・資金洗浄では「足が付きにくいから」現金が大原則でした。モネロやZcashといった匿名通貨は履歴などの「追跡ができない・困難である」ため,日本では(かつてCoinCheckなどの交換業者でプライバシー保護に優れた暗号資産の意味合いもあって扱っていたのですが)追放の憂き目に遭っています。現実にはビットコインなどの大手の暗号資産でも犯罪取引・資金洗浄の側面は無い訳ではないですが,履歴を検証できる特性から近年ではその追跡などにより,例えば交換業者からの暗号資産の盗難・意図せざる流出等を引き起こした場合には捕まる事例も出てきています。

 とはいえ国際法の観点から法的な禁止事項はその国ごとの法的な効力の及ぶ範囲でしか適用できない関係で,CBDCの利用は主に国内(ないし国内法が事実上適用できる範囲)に限る必要があります。これが証拠に,例えばカンボジアのバコンには現地通貨リエルのほかに米ドル部分も準CBDCとして扱う手段があるのですが,その適用範囲は主にカンボジア国内に留まっていて,米ドルの現金が使われている他の場所でバコンが使える状況ではありません。

 こうした事柄の現実的な手段は色々な方法が考えられます。例えばデジタル人民元は中国大陸における民間のコード決済であるAlipayやWeChat Payのすぐ横に入ると言われていますが,AlipayやWeChat Payなどは原則的に中国大陸内にある銀行口座と紐づけられていて,中国大陸内の銀行口座を開設できる人に限られているため,日本国内から外に出たことのない人がAlipayやWeChat Payなどを使うというのはかなり難しいものがあります(日本のコンビニ等では訪日中国人や中国大陸からの留学生向けにAlipayやWeChat Payに対応している場所も少なくはないのですが)。デジタル円などのCBDCにも或る種の使用可能地域の制約がかかると考えられ,その国の外でその国のCBDCを無制限には使えない部分があります。

 ではCBDCでは出来なく暗号資産だからこそ出来る部分とは何か,という部分が大事になります。幾つかありますがここでは2点だけ取り上げておきましょう。1点目に,少なくとも「(越境を含めた)少額決済」は該当致します。「(越境を含めた)少額決済」の詳細は(大きなビジネスチャンスを逃した事例なども含め)別の記載でも扱っていますのでそちらを参照してもらいますが,ポイントだけ押さえておきましょう。https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200303/se1/00m/020/005000c (2024-07-31アクセス)

現状(並行輸入品の購入など)国境を超えた決済は基本的にクレジットカードなどに限られていて,その「1回あたりにかかる手数料」などの観点から少額決済には向かない面があります。一方で国内の少額決済にしても,(1話10円の昔の漫画や1曲10円の昔の曲など)少額決済が(9.9円等微調整も含めて)し易くなればもっと使いやすくなるが,現状はそうではないのでまとめてのカード決済(や事前購入のポイント制)となっている場合などもあります。かつてのLINE Payなどをはじめとしたコード決済で「同じアプリ同士なら」手数料を外して送る手段はありますが,アプリを超えて送ることは出来ませんし,そのアプリが使える範囲も限られます。現金で受け取れる手段というと現金書留がありますが郵送代も少額送金には高くつきますし,かかる日数の問題もあります。銀行の口座振り込みだとかかる手数料は(少額送金からすると)高く付きます。少額決済・少額送金は「非対面の場合には」非常に難しいものがあります。少額決済・少額送金を少額の手数料で行うには現状,(価値の変動を事実上ほぼ無視できる)ステーブルコインが最も優れた送金方法と言えますが(一部の無担保プログラム型等価値が大きく毀損しうる事例はありますが),(国・)通貨圏を超えての少額決済を考えると暗号資産の方が優れています。

 2点目に,インフレ気味でその国の通貨が信用できない場合などでは暗号資産の活用は物凄く大事になります。トルコ(現:テュルキエ)やアルゼンチンなど(日常生活に支障を来すレベルも含めて)インフレ気味の国は幾つかあります。ハイパーインフレを起こしたベネズエラでは(ITリテラシーを持つ層では)ビットコインが日常的な決済に使われている部分があるということは有名な話です。旧来ではそうした際には米ドルやユーロをはじめ「大手の別の通貨に切り替える・価値を固定するなど」の手段が大事にされてきましたが,大手の別の通貨に価値を固定することが難しいことは1992(平成4)年のポンド危機や1997(平成9)年のアジア通貨危機などで既に知られていることです。かといってパナマやエクアドルのように「米ドル直接流通」等の選択をしてしまうと,米ドルに対する政策変更がUSA(アメリカ合衆国)によって一方的になされたときに対処のしようが無くなってしまいます。この原稿を書いている2024(令和6)年7月末も米大統領選ではその結果次第で米ドルへの通貨政策が大きく変わりそうな様子がありますが,暗号資産という「第2の選択肢」があることは極めて重要な意味を持ちます。

 一方でCBDCが持ち得る「価値を安定させての」オンラインでの送金・決済手段が存在することは極めて重要なことです。こういうことはクレジットカードなどで既に出来る,と言われそうですが,クレジットカードには強制通用力は無いので,クレジットカードでの支払いは出来ませんと言われればそれまでです。ここで「強制通用力」という考え方が大事になります。

 強制通用力はそもそも,代金の支払いなどの用途に使用された際には「受け取らなければならない」とする(法的な)義務を持つことを指します。2024(令和6)年7月現在の日本国内においては日本円の紙幣が強制通用力を持つ貨幣つまり「通貨」に該当し,USA(アメリカ合衆国)なら米ドルが,ユーロ圏ならユーロが該当します。2024(令和6)年7月には新紙幣が1万円札,5千円札,そして千円札で発行されましたが,渋沢栄一などの新札にも福沢諭吉などの旧札にも,聖徳太子などの物凄く古い旧札にも,そして沖縄県以外では殆ど見なくなったかつての2千円札にも強制通用力は実はあります。聖徳太子や伊藤博文などの物凄く古い旧札は額面以上のプレミア・価値が付くことが多く,額面通り使ったら損だから誰も使おうとしないだけです。これを断るにはお店の前の掲示など「契約する前の段階で」提示をしておく必要があります。「新札非対応」「現金お断り」などの表示が「契約する前に」出されていて確認できる事例があるのはそのためであり,その表示がないなら渋沢栄一の1万円札や北里柴三郎の千円札などの新札などで支払われても受け取りを断ることは出来ません。1円玉や500円玉のように硬貨の場合には「補助貨幣」という位置付けのため,同じ種類が20枚までなら強制通用力同様の効果はありますが,21枚以上の場合にはその適用から外れます。よくギャグ漫画である「全部1円玉で」21枚以上出して支払う,というものはお店側では拒否できるわけです。

 こういう強制通用力の設定は非常に大事であり,現金紙幣のように強制通用力のあるものはお店側で対応しているからこそ,クレジットカードやPayPayのようなコード決済,PaidyのようなBNPL(Buy Now Pay Later),Suicaのような電子マネー,そして暗号資産での支払いについて「お断りをするものがある」わけです。とりわけ,暗号資産には日本円との価値が動くという部分があり,2024(令和6)年7月現在の日本では暗号資産が支払い手段として使われる事例は極々限られていて,例えばビックカメラのようにビットコインでの支払いには「暗号資産の交換業者を間に挟んで」価値の変動を出来るだけ抑えて扱う場合などに限られています。

 こういうときに価値を安定させた暗号資産のようなものがあることは非常に重要ですが,当初はその予定だったテザーなどのステーブルコインに関しては,(かつてのテラUSDのように無担保プログラム型はバグ1つですぐに価値の安定など壊れるので論外ですが)法定通貨担保型と言われるステーブルコインでもその価値を確実に安定させる方法については色々苦労している面があります。例えば米ドルに価値を安定させていたステーブルコインの1つであるUSDコインでは2023(令和5)年春のシリコンバレー銀行に始まる一連の米中堅銀行の破綻の際に,USDコインの裏付け資産の一部がその破綻した銀行にあったからと,破綻した銀行の預金に関する完全保障が宣言されるまで価値が揺らいでいた面があり,価値の変動にはそのステーブルコインのせいとは言い切れないが動いてしまう場合もある訳です。ところが「動く場合がある」と言われてしまうと,受け取る方からすれば安心して代金として受け取ることが難しく,CBDCなどのような価値に関して(現金と1対1の)「お墨付きのある」ものの重要性はある訳です。

 ところで,現金紙幣の場合には「渡してしまえば」済むので,強制通用力は法的な問題だけで済みますが,CBDCの場合には強制通用力を考えなしに課してしまうと①一時的な機器の故障などそのお店だけ「一時的に」受け取れなくなった場合,②大災害など「地域の多くで」受け取れなくなった場合,③受け取るための機材を有していない場合などの対応を考える必要が出てきます。このうち③に関してはQRコード決済のように「受け取り用QRコードを出しておいて」受け取ることだけは可能にし,そのQRコード作成の補助を各店舗に出す,という位なら出来るかと思われますが,(①や)②の場合には一時的な受け取り義務の免除などが必要になる場合も考えられます。しかしそれは果たして強制通用力と呼べるのか,という問題が出てきます。

 ちなみにCBDCとはやや違うのですが,ビットコインを(米ドルに次ぐ)第2の法定通貨に加えた中米エルサルバドルではビットコイン法第12条に困難な場合にはビットコインでの受け取り義務を免除する規定があり,日本で暗号資産を法的に定めている資金決済法で暗号資産の定義に外貨は含まれないことになっているが,日本ではこの規定などを基に「いついかなるときにも支払いに使える」強制通用力を持つ外国の法定通貨にビットコインは当たらないとして,ビットコインは外貨でなく暗号資産である,という法的解釈をしています。https://doi.org/10.34360/00012791 (2024-07-31アクセス)

 とはいえ,クレジットカードや電子マネー,民間のコード決済のように「使える場所が限られる」という問題は,手数料を国に投げられるので事実上解消できます。手数料を必要とする民間のコード決済は「CBDCにない機能を有していない限り」デジタル円等のCBDCが出てくると淘汰されると考えられます。とりわけ(J-Coin Payのように)「銀行残高に戻せることが」主な特性のコード決済などは(原則的にクレカチャージ出来ないため)デジタル円などのコード決済が出てくると淘汰される可能性が高いと言えます。また,価値の揺らぎ等に関しては1デジタル円=1円のように厳格に法的に定めて裏付けることで心配いらなくなるでしょう。デジタル円である限り,日本銀行が現金と同じ価値を保とうとするでしょうし。

 以上を総じてCBDCの普及で「価値の揺らぎなく」しかも「普段は問題なく」支払える等のCBDCの意義はありますが,CBDCが普及すれば暗号資産はその本来の用途に焦点が当たることになるため,その用途・目的をしっかり持ったものはあまり大きく変化することは無いと思われます。但し,USDコインをはじめとするステーブルコインやその裏付け資産を他に委託することで使い込めなくした民間デジタル通貨などに関しては,CBDCの普及でその存在意義はかなり問われる事になるため,中には存在意義を無くすものも出てくると思われます。

 しかし,先ほどの話と矛盾はしますが,CBDCは本来その国の中だけで使えるようにする事になる反面,米ドルやユーロなど主要通貨に関してはオンラインでも「国・通貨圏を超えて」使えるようになってほしいという要望は将来的に出るものと考えられます。ここで,テザーなどの一部のステーブルコインに関して,日米などでのステーブルコインに関する厳格な取り決めなどに敢えて従わない代わりに別の方法で価値を安定させて,バコンのような主要通貨のCBDCを作れない国の「CBDCの代わり」として機能させる形で生き残らせる方法があります。ステーブルコインは国を超えて「価値を事実上安定させてオンラインで使える手段」として生き残っていくことが出来るかどうかが,CBDCの普及した世界では問われます。

暗号資産が社会や経済にもたらす変化

ファイナンスジャパン合同会社編集部:長期的に見て、暗号資産が社会や経済にもたらす変化は何だと考えられますか?

OGAWA先生:暗号資産だけで社会や経済にもたらす長期的な変化として3つ挙げておくべきと思われます(ブロックチェーンをはじめとする分散型台帳技術に関してはもっとたくさんありますが)。そのうちの1つは「お金のデジタル化」であり,2つ目は「通貨圏に囚われない生き方・商売の仕方」になるものと思われます。最後の1つは(厳密には暗号資産だけでとなるかは微妙ですが)「お金を利用した新たな仕組みの構築」となるものと思われます。このうち2つ目が最も重要です。

 お金のデジタル化に関しては暗号資産に限った話ではありませんが,現金はそもそも何のためにあるのかが問われている部分があります。例えば現金取引が続くから税金などの計算も都度手作業で行う必要があり,税捕捉の度合いなどの問題も発生します。現金取引が続くからおつりが出せないときに取引が出来なくなるので都度小銭をたくさん用意しないといけないわけであり,両替の手間がお店側には都度かかっています。現金取引が続くから都度お店を閉めたら現金を数える必要があり,現金盗難には基本的に足が付かないから金庫など様々なものが必要なわけです。暗号資産関連ならセキュリティ対策は本質的にはシステム保持担当者間だけでやってくれれば済む訳ですが,現金取引が続くから偽札などを作る意欲が一部犯罪者から消えず,偽札対策としての新紙幣発行を都度「日本の在住者全員を巻き込んで」やらなければならなくなるわけで,その顔としての人選の妥当性(例えば渋沢栄一さんに対して「日帝の侵奪の張本人を貨幣の人物とする決定は、植民地支配を正当化することを狙った欺瞞(ぎまん)的行為」や「新札の渋沢栄一は不貞を連想させるため結婚式のご祝儀には福沢諭吉の旧札を使うのがマナー」などの声)が都度問われる,なども出てくるわけです。https://www.sankei.com/article/20240702-DU2562VUHZFSTOCJGNRTO3JQBQ/ (2024-07-31アクセス)
https://ima.goo.ne.jp/column/article/13905.html (2024-07-31アクセス)

 かつて韓国がアジア通貨危機のときにIMFに言われて税捕捉等の関係で「どんな小さなお店でもクレジットカードを切れるように」という形にしたことが(今では少し緩めていますが)その後の韓国でのキャッシュレス決済比率約9割などの情報に繋がるわけですが,日本では2019(令和元)年にキャッシュレス推進政策を行っても大手のコンビニなどがその恩恵を受けた程度で本当に広がってほしい地方の現金限定の小規模店舗にはあまり広がらなかったことは有名です。とはいえ電子マネーやコード決済等であれば通貨圏を超えて広がることはほぼありません。クレジットカードや(その場で銀行残高から引き落とす即時払いの)デビットカードなどは国・通貨圏を超えても対応していれば使えますが,支払いには使えても送金に使えるわけではありません。暗号資産はこうした目的に(やり方次第で)ほぼ全て対応できます。

 昔はそれでも現金に存在意義はありました。それは「現金は最強の流動性を持っていた」からです。どんなお店でも現金なら使える,昔はそのように説明されてきました。しかし今はどうでしょうか。公共料金の支払いなどは銀行引き落としが中心であり,現金なら払い込み用紙を持って都度コンビニなどに行かなければなりません。夜遅くでもこの日が期限なら(ネットバンキングが使えれば自宅内でスマホで出来るとしても現金なら)コンビニなどまで行かないといけないわけです。振り込んでの支払いが必要な所に現金を送っても受け付けてもらえない場合も多く,ATMなどに行って現金を銀行口座に入れてからでないと振込などは出来ません(ATMの動いていない時間に引っかかることも稀にありますし,ATMの利用手数料も無視できません)。通販での買い物を現金で行おうとすると代金引換となりますが,代金引換に対応してくれる所は少ないですし,代金引換に追加の手数料がかかる場合もあります。代金引換なら確実にその品物がその場で受け取れないといけなく,例えばお釣りが必要になる場合などでは事実上困難ですし,宅配ボックスに入れておいてくれなどは代金引換では出来ません。長期的にはそうした現金中心主義からの脱却の一助に暗号資産はなり得る可能性があります。

 とはいえ,それはあまり暗号資産の特性ではない,という声も出てくるかもしれません。そこで2つ目の「通貨圏に囚われない生き方・商売の仕方」が大事になってきます。我々は普段日本円で物の価値を考え,日本円で決済金額を数えて生きています。しかしそれは日本円という通貨圏に囚われての話です。他の国の人を商売相手にする場合,日本円のみの価格表示というのは常に価値が変動している状況ですので,「あと5分待ったらもう少し安くなるかも」などの可能性を考えてしまうかもしれません。この原稿を打っている2024(令和6)年7月末には日本銀行がちょうど政策変更をして政策金利の引き上げと長期国債の買い入れ減額などを表明したときでしたが,その政策表明の前後に1米ドルあたり2円前後価格が円高米ドル安に振れた部分があり,こういうことがあると「あと5分待ったらもう少し安くなるかも」として購入決断を避けるなどの可能性はあり得ます。暗号資産での安定的な価格表示が可能になれば,他の通貨圏の人も「それぞれの価値に直して」考えることが出来るので,或る意味安心して取引できます。

 関連しますが,日本円のような「不換紙幣による管理通貨制度」の基でのお金についてはその中央銀行の政策・考え方に強くそのお金の価値依存します。2012(平成24)年1月から2015(平成27)年1月の3年間で対外的に見て日本円の価値は30%近く下落しましたし,2022(令和4)年1月から10月の9か月間だけでも対外的に見て日本円の価値は20%近く下落しました。金融政策はその国の景気や経済に大きく関わるのでやむを得ない部分があるのですが,別に我々はその政策に都度振り回されて自分の持っている資産の価値を毀損する必要は無い訳です。こういうときに「世界各地の通貨に」分散となれば,その各通貨にも同様の政策リスクは存在します。かといって金(Au)にかえるとなれば,もはや決済手段として金(Au)が使われることも(一部のやばい国を除けば)ほぼ無くなってきましたし,そもそも金(Au)では重いという面もありますし盗難リスクも残ります。金(Au)しか避難先が無いというのは金(Au)の価格暴落には耐えられないわけです。暗号資産も色々と自分でその用途と将来性を比較して分散先に組み込むことの重要性はあると思われます。

 そして最後,「お金を利用した新たな仕組みの構築」という部分は暗号資産ならではの側面として理解すべきでしょう。各暗号資産には「その暗号資産が作られた目的」というものがあり,それぞれのホワイトペーパーに書かれています。例えばカルダノADAと呼ばれる暗号資産では(正確にはCardanoというオンラインカジノプラットフォームで使われる暗号資産がADAですが)公平な賭けを目指して登場した経緯があります。https://coinpost.jp/?p=30551 (2024-07-31アクセス)

旧リップルに相当する暗号資産XRPでは「インターネットを通じて情報やデータが場所や時間を問わず瞬時に伝達・交換できるのと同様に、金融資産をはじめとするあらゆる「価値」資産の交換が瞬時に実行できるシステム」つまり「価値のインターネット」を目指して作られた経緯があります。 https://hedge.guide/cryptocurrency/ripple/rippleinc/vision (2024-07-31アクセス)

 実際の実現度合いについては色々な声はありますが,それだけ社会を変える可能性はあります。最後に1つ説明を加えて締めたいと思います。

 イーサ(ETH)以降の暗号資産で導入されるようになった仕組みの1つに「スマートコントラクト」という仕組みがあります。(電子的な)モノと(暗号資産の形をした)お金とが共に揃わないと交換されず,共に揃った段階で自動的に交換され記録されるあり方であり,この取り組みを応用すれば代金を支払っても商品が届かないあり方や商品を送ったのに代金が届かないありかたの両方を防ぐことが出来ます。他にも様々な可能性があり,「暗号資産を利用したからこそ」初めてできる世界があるのです。

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